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気まぐれブログ 上杉昇さんの曲も想いも沢山の方に伝えたい

Album『Dignity』Interview,Long version

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wesugi.net

2021年3月にBARKSへ掲載された『Dignity』インタビューのノーカット版をお届けします。改めてこちらを読まれてから、5月24日のオンデマンド配信をご覧いただくのも一興かもしれません。

 

二回目の変声期を経て

 

●アルバム『Dignity』は、2019年の2月から制作に着手したんですね、完成まで約2年間。
「アルバム制作期間としては、今までで最長かな。世の中的にはコロナっていう変化はありましたけど、自分の中ではそんなに。やりたいことというか、構想には変化はなく。制作期間のうちに音の感じがちょっと古くなったかなって曲も、岡野さん(レコーディング・プロデューサー)と平田くん(ギタリスト、アレンジャー)に提出すると、今風というかいちばんイケてる感じでアレンジが返ってくるので、カッコよく生まれ変わったし。途中でツアーがあったり、2年間毎日取り組んでいたわけではないですけど、楽曲たちを1枚のアルバムにまとめるにあたって統一感を持たせられるようにミックスをやり直してくれたりしてるので。良い感じになったなと思いますね」
サウンド面も、ボーカルのアプローチも、これまででいちばんハードなロックに振り切った作品になりました。
「岡野さんに出会って、“防空壕”など数曲を作ってみて感じたのが、岡野さんの持ってらっしゃる音楽性が自分のバックグラウンドや嗜好と非常に近いというか、ほぼ同じなんですよね。年齢的なジェネレーションは違うので、そういった差はあるんですけど、好みが似てる。ロックというものに対する、見てる部分やカッコいいと思う部分の嗅覚というか、惹かれる部分、打ち出そうとする部分がすごく近いなと思って。“上杉くん、このアーティスト知ってる?”とか言われても、半分くらいは知ってるし。そういうのもあって、“この人とやったら、俺がこれまで目指してたロック調の曲をそのまま提示すれば、それをカッコよくしてくれるだろうし、そうなる”っていうのを肌で感じていて。もう一回ロックを、歌えるうちにやっておこうかなっていう」
●歌えるうちにって、どういう意味?
「けっこう最近なんですけど、俺、2020年の夏に二回目の変声期が来たんですね。一回、声が出なくなって。あれってやっぱり変声期だったからかなと思ってるんですけど」
●ポリープ?
「結節は良くなったんですけど、声域がレンジごとちょっと上がったというか、低音も高音も上がって、今まで出てた下が出なくなった代わりにちょっと上が出るようになったんですよ。男のシンガーの場合、年齢とともにだいたい女性ホルモンが増えていくので、声域が上がるらしいんですよね。B’zの稲葉さんも昔より上がってるじゃないですか。でも女性の場合は逆で、女性ホルモンが減っていくので、昔のその人の声域よりは下がる。自分の場合、変声期があって声が出なくなった時期には、このまま声が出なかったらどうしようと思って、鍼に通ったりいろんな病院に行ったりして、喉の手術をするかどうかってところまでいったんですけど、なんとか手術せずに治ってきたんですよね。でも結局、デフォルトのキーがちょっと上がって。ファルセットとかも、ライブの最後でいつもシャウトするじゃないですか、あれもちょっと高くなったんですよね。目一杯出すとちょっと高くなったというか」
●『Dignity』収録曲では、「斬れ」のコーラスなんか特にすごいですよね。まさにヘッドヴォイス、脳天から突き抜けるように響くハイトーンで驚きました。
「そこは、ジューダス・プリースト好きなんでね。ロックっていってもいろいろあるじゃないですか、全部鼻歌で唄ってる、みたいな方もいるし(笑)。でも、俺が思うロックってそうじゃなくて、もっと、自分の持ってるものを身を削って出すくらいの。それってエネルギーが余ってる時期じゃないとできないし、エネルギーの放出がロックだと思うので、それができるうちにやっておきたいなと。年齢的に考えても、人生半分以上きてますしね」
●ジューダスと言えば、Twoの「I Am a Pig」カバーも秀逸です。
「岡野さんはオルタナティブとかインダストリアルとかミクスチャー系のロックが好きっていうところまで一緒なので、Twoの良さみたいなところをいちいち説明しなくていいっていう。知識が豊富な宮沢(猫騙初代ベーシスト。WANDS時代からの盟友)ともう一回会ったみたいな、そういう感じです。ジェーンズ・アディクションをわかってくれる人ってそうそう居ないですからね」
●岡野さんはロラパルーザでジェーンズ・アディクションと対バンで出演したんでしたっけ。
ペリー・ファレルとかトレント・レズナーも知り合いみたいですよ」
●凄すぎて気が遠くなりますね(笑)。でも、上杉さんがロブ・ハルフォードジューダス・プリースト、Twoなど)をボーカリストとして好きといっても、ジューダスの代表的なメタル曲ではなくて、“メタル meets インダストリアル時代”であるTwoの楽曲をセレクトしたというところが、今の上杉さんっぽいです。これは歌詞をご自身で日本語に訳してますね。
「最近ちょっと英語を拒んでるところがあって。俺の中では、英語混じりの日本語の歌詞がちょっとダサいなっていうところに来ていて、サビだけ英語みたいな歌詞は敢えて排除してたところはあるんです。でも、この曲に関しては、サビはあのフレーズじゃないとあり得ないなと思って。ロブ・ハルフォード側も許諾をくれたので、いいんじゃないですかね」
スタッフ「日本語にした歌詞をもう一回英語に戻して、歌詞の権利を持っている人全員に確認を取りました。もちろん音も送りましたけど、細かい方だと曲のテンポを変えちゃダメとかって方もいるんですよね。今回は権利者がいっぱいいたので大変でしたけど、最終的には歌詞も見てもらって、音もチェックしてもらって」
●尊敬するアーティストに認めてもらえるって素晴らしいですね。
「過去にもあったんですけどね、“ハレルヤ”とか。レナード・コーエンさんはガチで、良いって言ってくれたみたいですよ。亡くなっちゃいましたけど」
●ロック史に残るようなエピソードです。
「自分で言っとかないと。誰も言ってくれないですから(笑)。でも今回、“I Am a Pig”をカバーして、ロブ・ハルフォードは偉大だと改めて思いましたね。ミックスボイスで歌う人はいっぱいますけど、……近いジャンルだとアイアン・メイデンのブルース・ディッキンソンとか。でも、鋭くないんですよね。ロブ・ハルフォードはキレッキレなんで(笑)」
●当時は怪鳥のような声とか言われてましたよね。でも、メタルゴッドと謳われながら、そのスタイルに固執しないですよね。FIGHT(無名の若手を起用したヘヴィメタル・バンド)を始めた時もすごくビックリしたし。その時代時代でカッコいい音楽性を取り入れていく人なんだなって。
「アグレッシブというか、前向きというか。ロックですよね」
●そういう攻めの姿勢も、共感するところはあるんじゃないですか?
「そうですね。彼も一時期、ハイトーン・ボイスを封印したり。まさにこのTwoをやってる時なんか、アルバムではハイトーンを一切使ってないんですよ。トレント・レズナーナイン・インチ・ネイルズのリーダー)と一緒にやってるので、それまでにやってきた速弾きギターやハイトーン・ボーカルを一切使わず、デジタルでヘヴィでっていう音楽性ですよね」
●オールドメタルのリスナーからは賛否両論だったみたいですけどね。
「それはそうでしょうね。でも“貫く”のが彼の美学ですから。ま、どっちもあるんじゃないですかね、貫く人は貫くんでしょうし。楽器の人ってけっこう逃げ道が多いですけど、シンガーって、その歌がどうかっていうのが全てなんですよ。ギタリストってちょっとしたテクニックを入れたりとか、素人にはわからないようなコードだったり、いろんなことで変化をつけたりできる。そういうところで消化できるじゃないですか」

 

個人の幸福と民主主義

 

●さきほど「構想に変化はなく」と言ってましたが、テーマについても伺いたいです。
「映画などもいろいろ、戦争映画とかも観たんですけど、何か感じるところがあれば、それを自分なりに“こう思った”みたいなことを表現できればなと思ってはいたんですけど、けっこう観終わった後に自己完結しちゃうというか、“あ、そういうことなんだな”とか“ああ、なるほどね”っていうので終わっちゃって、別に疑問とかも何も出てこなくて。“永遠の0”とか“二百三高地”も観たんですけど、悲惨で、大変だったのねってことくらいしか残らなくて。戦争の何たるかを描いてはいるし、個人のメンタリティーを表現もしてるとは思うんですよね。だけど、それがどうしてそうなったのかっていうのが謎のままだったりして。自分的にはあんまりガツンと来る映画がなくて。もうちょっとディープな、精神面とかを描いてる映画に出会えればいいなと思ってるんですけど」
●一冊目の自伝の取材時、4年ほど前になりますが、いろんな状況・シチュエーションに於いて人はどう思うんだろうとか、人の幸福って何だろうっていうのを考えたいって言っていたじゃないですか。今作を聴いて、その時の話がすごく腑に落ちたというか、こういうことか!と思いました。
「ありがとうございます。なので、わりと時代背景というか、うわべのところは当時のシチュエーションを生かしながらも、結局言いたいことは、今現在起こってることと対比させて書いていて。あくまでも“今の自分はこう思う”っていう、今の時代の中でどう思ってるかっていうことを言ってる曲が多いかなと思いますね」
●結果的にそれって、今後の未来を作っていくということに繋がると思うんです。
「理想を言えば、“昔こういうことがあって、こういう考えの人がいて、その教訓を現在にどう生かすか”みたいなところまで持っていければ良かったんですけど、わりとそこは難関でしたね。自分がタイムマシンでその時代に行けるわけでもないので、難しいですよ」
●社会情勢などは、実感としてわからないですよね。資料を読んだり調べたりして、理解を深めるしかないし。
「あと、ライブに招聘されて中国に行って、そこで民主主義の良さを改めて実感した部分もあって。中国にはあまりにも自由がないというか、表現の自由という意味でも、思想などをアートに昇華させたとしても、結局それは向こうでは発表できないし。そういうことを経験した中で、日本人で良かったなと改めて思う部分もありました。今回、曲にはしてないですけど、最近思うのは尖閣諸島問題ですね。あれはそもそも田中角栄が悪いんですけどね」
●そうなんですか?
「だって、日中国交正常化の時は“尖閣を棚上げにしましょう”っていうのを条件にやってるので。そこで曖昧にしちゃったから、今そのしわ寄せが来てるんですよ」
●「民に影が落ちてる」わけですね。
「そうですね。ほんとは田中眞紀子さん(角栄氏の実娘)にも頑張って欲しいんですけどね」
●あの、ちょっと脱線しますけど「虎ノ門ニュース」って観てます?
「観てますよ(笑)。もっとディープな番組も観てます」
●ネット番組の内容を鵜呑みにしてるわけじゃないんですけど、こういう出来事があったんだとか、こういう考え方もあるんだなとか、気づきのきっかけや勉強になりますよね。
「ちなみに、“虎ノ門ニュース”は誰の曜日が好きですか?」
●テーマ的には、武田邦彦先生と有本香さんの曜日が好きですね。
「有本香さんはキム・キョンジュとバトルして欲しいです。話し方が似てません? あの番組のコメンテーターは基本的に保守の人たちなので、左派の意見もちょっと聞いてみたいなと思うんですけど、あまりいないんですよね」
●ただ、個人的には誰かの話を盲信するのも危険だなと思っていて。一人一人がちゃんと考えるべきじゃないですか。違う考えの人ももちろんいると思いますけど。
「時事問題の動画って、楽しいから観てるんですよ。でも、そういう話題についてファンの人に言うと“勉強します!”ってみんな言ってくれる。でも“勉強、じゃないんだよなあ”って、いつも思っていて。俺は、単純に興味があるんですよ。ありふれた映画を観るよりも全然、現実のほうが面白い。2020年のアメリカ大統領選にしても、ディープステートとかフリーメイソンとかイルミナティとか、自分はそういう秘密結社みたいなものに昔から興味があって。あ、やっぱりあったんだって」
●今回はQアノンの陰謀論とかね。
「あー、ありましたね」
●2020年12月のライブで上杉さんは、「知識がないから意見を言う資格がないとか、あまり詳しくないから恥ずかしくて発言できないなんて考えずに、どんどん発言するべきだ」と仰ってましたね。
「民主主義国家では、主権は国民にあるんだから。一人一人が声を上げて意見を言うべきだと思うんですよ」
●日本人としての誇りとか課題について伺ってきましたが、他国の人もDignityをそれぞれ持っているという理解でいいんですよね?
「もちろんそうです。特にアラブ系の人とかは強いですよね。それに、日本の中にもいろんな人がいますから。一概に保守と言ってもいろんな考えの人がいて、保守同士でケンカしてたりとかね。そうそう、“チャンネル桜”っていう番組を作っている水島総って人がいるんですけど、俺はけっこう苦手なタイプでね。やってることには感銘を受けるんですけど、基本的に声がでかくて威圧感があるタイプで、自分の物差しで人のことを測るタイプっていうか。例えば、我那覇真子さんって方を小馬鹿にして否定したり。あと、幸福実現党幸福の科学の信者で与国秀行って人がいるんですけど、彼のこともエセ保守って言ったりしてるのを見ると、“じゃあ、お前は模範なの?”とか思っちゃうんですよね。ちょっと苦手なタイプ。もし会う機会があったとしても、俺とは相容れないだろうなって」
●それぞれ考え方なんて違って当たり前だと思いますけどね。
「きっと、左派もそうなんでしょうね。いろいろなんでしょう」
●以前、誰かの発言で「こっちの人からはあっち側だと言われ、あっちの人からはこっち側だと言われる」って話を聞いたことがあります。
「そういう人ってどうなんでしょうね。中立的ってことなのか、バランス感覚がいいんだと思います。いろんな人がいますよね」
●上杉さんも意見を押しつける気は全くないわけですよね、俺はこう思うって言ってるだけで。それを右寄りだと取る人もいるかもしれないし、左だと取る人もいるかもしれない。頭の中がお花畑な人や、オブラートに包んだ音楽しか聴いてないような人にはピリピリくるかもしれないですけどね。アーティストとして、思ったことは言って欲しいと思います。
「自分でも何故かは分からないけど、日本のこれからの事だったり、時事問題には自然と惹かれちゃうというか、自然と目が行くし興味が湧くし、何かできないかなって考えちゃうんですね」
●立候補するっていうのはどうですか?
「それはまた、いろんなしがらみができそうで(笑)」

 

環境問題と貧困ビジネス

 

●色んな時代背景の人間像などを描いている中で、ダイオキシンとか光化学オキシダントというワードが出てきたのはちょっと懐かしい気がしました。ダイオキシンが社会問題になったのって40年くらい前だし。
「あ、そうなんですか?」
●日本が高度成長期で、いろんな公害が出てきた時代のワードですね。
「俺、ここ数年中国に行ってたじゃないですか。PM2.5のせいか空気が曇っちゃって視界が悪かったりしたんです。そういう影響があって書いた単語なのかなと思うんですけど。最近はYouTubeを観ててもいろんな情報が錯綜してるじゃないですか。それに、一つそういう動画を観ると関連動画が出てくるし。あの、ダイオキシンに関しては、アイロニーなんです。ちょうどその頃ね、歯医者に通ってたんですけど、定期的にフッ素を塗りに来るだけの患者さんがいるんですよ。でもネットを観ていたら、フッ素は発がん性物質で猛毒だって書いてあって。で、医者の友達がいるんですけど、その人に訊いたんです、“フッ素って発がん性物質なの? 猛毒なの?”って。そしたら、“そんなこと言ったら、空気だってなんだって発がん性物質なんだよ”って言われちゃって。つまり発がん性物質であるかどうかは絶対量の問題で、そりゃ一生のうちに何十リットルもフッ素を飲めばがんに繋がるかもしれないけど、通常摂取できる量で、がんはできないって言われて。だから空気も発がん性物質なんだ、と思った時に、この曲ができました。細かいことを気にしすぎてたら生きていけないよっていう。埃が病気になるかもしれないからとか、いちいちビクビクしてたら生きていけないじゃないですか。そういう歌です」
●過剰に気にする必要はないっていう。
「環境問題もそうだし、またそういうのにつけ込んで金を儲けようとしてる奴がいるっていうのがね。そこを俺なりに言うと、こうなったっていう。言いだしたらキリがないですよ。電磁波がどうとか。あと、しきりに温暖化温暖化言ってるじゃないですか。温暖化だから冷房の設定を28度にしろとか。あれも武田邦彦先生いわく、“現代はもう氷河期”なので」
●「お前は地球か!」の名言ですね(笑)。武田先生は温暖化なんてないって主張されてますよね。
「それを言ったから干されてテレビに出られなくなったっていう(笑)。だから、過敏になりすぎるのも良くないよってことですね」
●確かに温暖化やSGDsの問題も、プロ活動家とかのビジネスに利用されるのはイヤですね。自分で調べて自分で考えて行動するなら自由ですけど。
アメリカのセレブって、環境問題に何十億って金を寄付したりしてるじゃないですか。確かにゴミ問題とかは目に余るものがあって、インドのガンジス川の周りはゴミだらけだし、川の水も汚染されまくってて、変なヘドロみたいな泡が出てたり。中国の川も水が不気味な七色に光ってたり。そういうのはなんとかして欲しいなと思いますけどね。ガンジス川って、下水道がそのまま流れてますから」
●あそこって、人の営みのすべてが行なわれてるって聞きますね。
「そうそう、炊事も洗濯もそこでして、禊ぎもそこでして、遺体も流しちゃう。全然聖なる川じゃなくなっちゃってるっていうね。ヒンドゥー教ではガンジス川って“聖なる川”で、身を清めたりっていうのに使うらしいですけど、現状は下水道と同じですからね」

 

Dignityというテーマについて

 

●今回のタイトル曲は、急きょ最後に追加して制作されたそうですね。
「Dignityっていう言葉はアルバムのタイトルにしたかったし、今日本人にいちばん足りないのはそこだと思ってるんで。ずっと思ってたことなんですよ。でも、テーマが大きすぎて、他の曲だけではなかなかそこまで持っていくのが難しかったんです。それでDignityというテーマを象徴するような1曲が欲しかったんですね。その一方で、リリックとか関係なく、『The Mortal』までにやってきた歌モノとしての世界観っていうのは、自分にいちばん近いというか好きな世界なんですよ。どちらかというと歌い上げるのが得意なタイプなので、そういう曲も入れておきたいなと思って。Dignityというテーマ的にもそうだし、歌のタイプ的にもこういう曲がないと、ちょっとうるさいかなというか、落ち着きどころが欲しかったんですよね」
●テーマだけではなく、ボーカルスタイルとしても、この曲が必要だったと。
「他の曲は、初めての歌い方だったり、今回はけっこう冒険してるんです。過去、ここまで高い声で、こういう歪みの声の出し方で歌ったことはなくて。だから、al.ni.co時代に回帰したのかなって思う人もいるかもしれないですけど、根本的には唄い方が、もう違うんです。al.ni.co時代はどっちかというとガナってたんですけど、今は全部うなってる感じで」
●“うなる”スタイルですか。他に何かボーカリストとしての試みってあります?
「ミックスボイスもたくさん使ってるんですけど、普通のファルセットで、オクターブ上で、King Gnuみたいに歌ってるところはあります。岡野さんから“やってみて”って言われて。“さすがに無理かぁ?”とか挑発されて、“人をやる気にさせる方法を知ってるなぁ”って(笑)。“できますけど? それくらい”みたいな気持ちで歌いました」
●「Dignity」という曲の歌詞は、ホームレスにハンバーガーを配る動画がYouTubeでバズっているのを観て感じた違和感がベースになっているんですよね。
「ホームレスの方って、時代に関係なくずっといるじゃないですか。だから、この曲ではそんなに時代背景を意識せずに作れたかなと思うんです。俺の友達のお父さんが、ホームレスの方を自分の家の風呂に入れてあげて、何の見返りも求めずに帰したことがあったんですけど、後日ホームレスに関する団体の方が動いてくれて表彰されたりしたんですよ。本当に心根のところから助けたいと思っている誠意っていうのは、伝わるんだなと思って。だけど、動画のためだとかネタのためだったり、本末転倒になってると、やっぱりやられるほうもイヤだと思うんですよ」
●誰しも人として生まれた以上、人としてのプライドとか尊厳はあるわけで。そこに対して失礼なことをしたり利用するっていうのは本当に気持ち悪いですね。
「でも、動画のコメント欄ではみんなその行為を絶賛してるんですよ。1人くらい異論を書いてる人がいれば少しは安心するんですけど、いないから、おかしいなと思って」
●みんな「自腹切って食べ物をあげてて、偉い」って書いてるの?
「書いてるんですよ。否定的なコメントは全部削除してるんだとは思うんですけど」
●食べ物が手に入るのはありがたいかもしれないけど、スッキリしない話ですね。
「動画のためっていうのが大前提だから、なんかなあと思う。日本人はそういう意味での精神文明は進んでるとは言われてるんですけどね。モラルとかそういう面に於いて、民族性というか、相互監視的な部分や村社会の歴史があったりするぶん、他の国より礼節面はちょっと進んでるのかなとは思うんですけど。まあ、音楽に関してはまだまだですね」
●音楽に関して?
「やっぱりね、デビューしていきなり武道館やるような奴とかがいるからだと思うんですけど。こないだビリー・アイリッシュがMステにVTR出演して歌ったらしいんですけど、やる気のなさそうな感じを見て“日本人をバカにしてる”って言う奴がいっぱいいて、炎上したんですよ。ビリー・アイリッシュって、そういうキャラなだけなのに。音楽的には違うけど、歌詞の内容は“ニルヴァーナの再来”とか言われちゃうくらい退廃的だったりダルそうな感じ、バッドガールな感じ。そういうところまでは理解できないんだなあっていうのが非常に残念ですね」
●上っ面しか見ていない。
「ファッションとしてしか、音楽に関わってない。俺、昔、WANDSのレコーディングでわざと曲に咳払いを入れたんです。そしたら、“上杉さん、あの頃風邪引いてませんでしたか?”っていうファンレターがいっぱい来て(笑)。そのままだなあと思って」
●意外とシャレって、通じないんですね。
「通じないんですよ。わかりやすく提示されないと分からない。そういうところもね、そこに込められた意味とか意図も考えつつ、ファンのみんなと一緒に成長していければいいなと期待してます」

[2021.2.25(木)東京・新宿にて]
文●舟見佳子 
撮影●加藤正憲